スティグマを助長する言葉や画像、政策などが許されない社会をめざして


■Twitter上のある投稿に対する想いを連投してみました


Twitter上のあるアカウントからの「スティグマに満ちた投稿」を、僕に教えてくれた方がおられました。その方は「生活習慣病を死語にする会」としての僕の活動を知っていたのでしょう。ご自身、このツイートに対して強い批判を込めた投稿をした上で「杉本先生、あとはよろしくお願いします」と、その後のリプライを僕に託しました。そこで、思いつくまま、以下の様なツイートを連投しました。

このツイートを見て感じたのは怒りではなく、悲しみでした。それが医療者から発せられていることはさらに驚きです。2019年日本糖尿病協会および糖尿病学会はアドボカシー宣言をしましたが、あらためて社会に正しい情報を伝えなければならないという責任を痛感しました。


当事者を傷つける科学的事実に基づかない、こうした情報が共有され、社会に拡散することで、社会的なスティグマが増幅されていくのだろうと思います。あらためて身の引き締まる想いです。少し長文となりそうですが、今感じた事を書いてみたいと思います。


科学的事実に基づかない誤った情報で、当事者をラベリングすることを「スティグマ」と呼びます。僕の専門は肥満やDMですので、これらに対する説明を試みますが、そもそも「生活習慣病」という呼称が我が国に存在していることが問題で、これが社会的スティグマを生み出す本丸だというのが僕の主張です。


生活習慣病はLife style related diseaseの邦訳ですが、直訳すれば「生活習慣関連疾患」となりますが、医療者が介入可能で、しかも本人の努力でコントロール可能な生活習慣に注目し、この単語に「病」を組み合わせて「生活習慣病」という造語を作りました。


生活習慣病という呼称については当初より社会学の専門家などから病の責任の所在を個人に還元することで、医療費の抑制を図る狙いがあるという批判がありました。最大の問題は「糖尿病=個人の生活習慣の問題」、だから罹った個人の責任といった自己責任論を社会に広く流布したことです。


その結果、あたかも「個人の生活習慣」が原因であるかのような誤解が国民の間に深く浸透し、当事者を深く傷つけ、苦しめています。一般の方のために説明すると、DMは遺伝素因+環境要因+個人の生活習慣が複雑に関与して発症します。しかし遺伝素因、つまりDMを発症するスイッチをもって生まれてくることが発症の一次的要因です。


スイッチをもっていなければ、どれほど太っても食べてもDMは発症しません。元々は生活習慣に注意することで病気の予防に繋げようという意図があったと言いますが、その後「乱れた生活習慣によって発症する病気」などと誤って解釈されるようになり、社会に広まりました。


元来、生活習慣は個人の生き方、考え方、価値観、嗜好などと一体不可分な関係にありますので「生活習慣病」という呼称は当事者の生き方や人格までが批判の対象とされてしまう恐れがあります。


我が国のDM患者を対象としたBMIとカロリー摂取量に関する研究をみても「カロリー摂取量とBMI」には相関がみられないと報告されています(Diabetes Res Clin Pract 2007;77 Supple1,S23)。


また肥満に関する最新の科学的エビデンスにおいても、生物学的、遺伝的、環境的因子が肥満に強く影響していることを示しています。それ故、「堕落した人間」という表現は科学的根拠に基づかないステレオタイプであると断言できます。


私達はこうしたスティグマを助長する表現、態度、画像、政策が許されない社会を構築していきたいと思っています。そうした目的で「生活習慣病を死語にする会」を立ち上げ、12月12日、最初の市民公開シンポジウムを開催します。ぜひ多くの方のご参加をお待ちしています。

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