本会設立にあたり、文化人類学者 磯野真穂さん、 東北学院大学, 教養学部, 准教授 東海林 渉さんから推薦の言葉をいただきましたので、ここにお二人からのメッセージをご紹介させていただきます。
■文化人類学者 磯野真穂さん
「20代で糖尿病と診断された私は、医師から直ちにインスリンが必要だと言われました…でも私はそのとき、それを受け入れたら、自分が社会的に差別され、とても不利な立場におとしめられてしまうという不安に駆られました」
彼女はそれから、実に半年間も、身体が悲鳴を上げるまで治療を拒否して頑張り続けました。
本会の立ち上げ人、杉本正毅さんのnoteから一節です。
本、食べ物、薬、大人、子どもなど、私たちは自分たちの社会を秩序立てるため、事物や現象を分類しそれに名前をつけ、それを理解することで生活を送っています。これはあまりにもありふれた行為なのでふだんは目にも止められません。ですがこの分類に与えられた意味づけが人々を苦しめることがあります。
「生活習慣病」というカテゴリには力があります。それは、そこに入れられた人を、「悪しきライフスタイルゆえに病気になってしまった人々」と意味づける力です。こんな意味づけを背負って生き続けることを誰が望むでしょうか。だからこそ20代で糖尿病と診断された彼女はその中に入れられないために懸命に頑張りました。
カテゴリから一方的に与えられる意味づけは時に人を助けもしますが、人生を窒息させることもあります。「生活習慣病」には明らかに後者の力があり、それゆえにこの病名を死語にすることは大きな意義があるでしょう。本会の趣旨を強く支持します。
■東北学院大学, 教養学部, 准教授 東海林 渉さん(臨床心理学)
『生活習慣病』を死語にする会の発起人、杉本正毅さんはTwitterで、会への思いを次のように語っています。
「糖尿病コミュニティーの中に存在する1型DM当事者と2型DM当事者の間にある不理解を解消しなければいけないと思います。それは主に1型当事者から2型当事者に対して向けられる非難です。この問題が解消されない限り、糖尿病という病名の改名運動は始められないと思っています。」(2020年4月11日 杉本さんのTwitterリプライより)
私は17歳で1型糖尿病を発症しました。発病からしばらくのあいだ、「生活習慣病である2型糖尿病と間違えないでほしい」と思っていたし、「糖尿病という病名を変えてほしい、2型と差別化してほしい」と願っていました。杉本さんの指摘は、過去の僕の誤解と偏見に対する指摘のようで、耳が痛いです。
2型糖尿病の原因が『生活習慣』だけではないと知った現在は、全くそのようには考えていませんが、1型コミュニティーの中には、今もまだそうした声があります。1型糖尿病の小児キャンプに参加する子どもたちが、発症直後の僕と同じ願いを口にする姿をこれまでたくさん見ました。子どもたちは素直です。大人の社会をよく観て学んで、真似しています。大人社会にある『生活習慣病』をめぐる誤解と偏見に、今も多くの子どもたちが巻き込まれています。
社会には、「2型をアンチロールモデル(目標とならない人、こうなりたくないと思う人)にしている現実」があり、「2型を身代わり・生贄(スケープゴート)にして安心している私たち」がいます。私たちは、これに気づく必要があるでしょう。『生活習慣病』の名前はわかりやすい反面、「生活習慣」という原因と、「糖尿病」という病いの因果推論を強固にしてしまいます。その結果、糖尿病に「自己管理ができない病い」というレッテルを無条件に貼り付け、残酷にも、2型当事者に「自己管理ができない人」という烙印を押してしまうことになります。
「病い」と「人」とを分けること。人を「人」と見ること。『生活習慣病』の名称を死語にする意義は、ここにあると思います。本会の活動を応援しています。